第12章 まさかの恋敵
その夜、なずなは野薔薇にある相談を持ちかけた。
「私、伏黒くんにちゃんとお礼が言いたいんだけど、まだ言えてなくて……」
面と向かって言えるかどうかも自信がない。
眉を八の字にしたなずなはモジモジと手をこまねいている。
「じゃあ電話でもしてみたら?昼間は伏黒に電話してたじゃない」
商店街で迷子になった時、真っ先に伏黒に電話していたことを思い出し、提案すると、なずなはにわかに慌て出した。
「あ、あああれは、間違い電話というか、そんなつもりじゃなくって……」
「まぐれでも1回できたんだから、次もできるわよ。カンペ用意してそれを読み上げればいいでしょ?」
「……ぇ、と……でも……」
それでも自信が出ないようで、ボソボソと言い訳している。
やりたいことがあるのに言い訳をつけてやらない、という態度は野薔薇を少し苛立たせた。
「つべこべ言わない!失敗したって別に死ぬわけじゃないんだから、やってみればいいでしょ!?」
「で、でも、うまく言えなかったら?伏黒くんに嫌われちゃうかも……!」
たかが電話で話せないくらいで大袈裟な、と野薔薇は肩をすくめるが、なずなは真剣に不安そうにしている。
これは、背中を押す程度ではダメだ。
なずなはきっとウジウジしているだけで動かない。
背中を突き飛ばすくらいしないと、と野薔薇は思考を切り替える。
「アンタね、まともに会話できなくなったくらいで嫌うような狭量な男なんて、やめときなさい」
「ふ、伏黒くんは狭量なんかじゃないよ!」
突き放すように言った野薔薇に、なずなは反論した。
その様子に野薔薇はやはりとほくそ笑む。
なずなは自分がどう言われようと我慢できるが、伏黒の悪口には黙っていられない。
励ますより焚きつける方が効果的。
「……なら、失敗したとしても嫌われないでしょ?」
「ぁ……そっ、か」
なずなもそこでやっと腑に落ちた。