第12章 まさかの恋敵
野薔薇が制服の汚れを払っているなずなに近づくと、おもむろになずなが口を開いた。
「……どうしよう?私、伏黒くんのこと、どんどん好きになってる……好きになるのが、止められないの」
野薔薇からすれば、どうしたもこうしたもない。
もう少し恋というものに慣れて積極的に伏黒に関わりにいけばいいだけの話だ。
しかし、なずなは今にも泣きそうな顔をしている。
「伏黒くんのことを考えると、いつもドキドキするけど、あったかくて……でも、失恋しちゃった……」
力なく笑い、ガクリと肩を落としたなずなに野薔薇は唖然とした。
どうやらなずなは、さっきの茶番劇を本気で信じ込んでしまっているらしい。
「バカ、目を覚ましなさい!相手は伏黒でしょ!?勝ち目しかないわよ!!」
野薔薇はなずなを叱りつけ、肩を揺するが、なずなの目は明後日の方を向いて虚ろなまま。
「……無理、だよ。五条先生になんて、勝てるわけないよ……しょせん私はそこら辺に生えたぺんぺん草……」
「恋は盲目か!!見えてないにも程があるでしょ!」
伏黒が五条のことをウザがっているのは火を見るよりも明らかだ。天地がひっくり返っても恋人などあり得ない。
しかしショックが大きすぎて、なずなはそのことに気づいてすらいない。
いや、五条が美形すぎるのも一因か。
なんにせよ、なずなに芽生えた恋心をこんな茶番で潰すわけにはいかない。
ひとまずお通夜レベルに沈み込んでいるなずなの誤解を解かねば。