第12章 まさかの恋敵
今の状況だと、おそらくなずなはおとなしく譲歩して、男の言いなりになって責任を取らされる。
一体何をさせられるか、と思い至った瞬間、ざわりと心が騒いだ。
首をもたげた黒い感情を振り払うように頭を振り、伏黒は努めて冷静を保つようにする。
「警察、行ってもいいんですよ」
最初にぶつかったのがなずなでも、転んだ彼女の制服についた汚れを見れば、旗色が悪くなるのはあちらだ。
向こうもそれを理解したらしく、気ィつけろと捨て台詞を吐いて立ち去った。
「渡辺、大丈夫か?何かされなかったか?」
「ぅ、うん……大丈夫……」
男を追い返した時とは打って変わって、心配そうな声で尋ねてくる伏黒に、なずなはまたしても顔を上げられなかった。
ああ、ダメだよ……
これ以上はダメだって分かってるのに、ときめく気持ちを抑えられない。
きゅんと胸が甘やぐ。
伏黒くんが助けてくれて、すごくすごく嬉しい。
本当はちゃんとお礼も言いたいのに、口はちっとも動いてくれなくて……
「な、なんにもされて、ないよ……」
震えた声で小さく言うだけで精一杯だった。
小さく震えているなずなに伏黒は伸ばしかけていた手を引っ込めた。
よほど怖かったのか、胸の前でずっと両手を握りしめている。
自分が近くにいると、余計に怖がらせるのではないか……?
最近自分を避け続けているなずなの様子を思い出し、伏黒は後ろから追いついてきた野薔薇になずなを託すことにした。
「釘崎、後頼んだ」
「なっ、ちょっと何があったのよ!?」
やっと追いついた野薔薇は訳の分からない状態でボールを投げられ、語尾を荒らげるが、すれ違いざまに目に入った伏黒の悲痛な面持ちに追及の言葉を飲み込んだ。