第12章 まさかの恋敵
伏黒は見失ったなずなを呪力を頼りに探していた。
本人にその気はないだろうが、鬼切を持った状態のなずなはかなり足が速い。
加えて商店街の通りから外れた路地に入ったのか、道が入り組んでいて、探し難いことこの上ない。
呪力が近いと見当をつけて角を曲がっても姿が見えないことが数度続き、伏黒にも焦りが出てくる。
近いはずなのにどこ行ったんだ……?
・
・
・
何度目かの細い通りを曲がると、なずなの後ろ姿をやっと見つけた。
……と思ったら、どうも雲行きが怪しい。
なずなはなぜか座り込んでいるし、その向こうにはガラの悪そうな男が見える。
足を早めて近づいていくと、会話……というより男の声が漏れ聞こえ、大体の状況は分かった。
どうやらなずながあの男にぶつかってしまったらしい。
責任がどうのとか言っているが、ぶつかって転んだのはなずなの方、男の言い分は明らかに難癖だ。
「そっちこそ、人のこと転ばせておいて、何なんですか?」
伏黒はなずなを庇うように割り込み、男を冷ややかに睨み返した。
「ふ、伏黒くん……あ、あの、私、その人に、ぶ、ぶつかっちゃって……」
背後から聞こえた声はか細く震えていた。
「そうそう、その責任を取ってもらおうって話をしてんの。邪魔すんなよ」
男は威圧的な姿勢を崩さない。
別に伏黒は目の前の男と一戦交えようと構わなかったが、なずなはそうはいかない。
ぶつかってしまった負い目から、悪いのは自分だと思っていることだろう。
そういうところが伏黒自身とは違う。
お互いが穏便に解決できるよう平和的に話し合おうとする。多少自分が我慢しても、だ。