第12章 まさかの恋敵
なずなは足の向くまま走り続けた。
見たくないのに、思い出したくないのに、さっきの光景が頭から離れない。
この世のものとは思えない完璧な美貌に呪術師最強の強さ、おまけに五条先生は伏黒くんが小さな頃から付き合いもあったらしい。
ぽっと出の私が2人の間に割り込むなんて、おこがましいにも程がある。
心臓がギュウっと鷲掴みされたように痛む。
頭の中がぐちゃぐちゃで、どうすればいいのか全然分からなくて……
すごくショックなはずなのに、涙も出ない。
悲しくて、悲しくて、息をするのも苦しい……
肺が痛い、心臓も痛い……
ドンッ
「きゃっ……!」
脇目も振らずに走っていたら、強い衝撃を受けて尻もちをついてしまった。
恐る恐る顔を上げると、怖そうな男の人がこっちを見下ろしている。
周りをよく見ずに細い通りから出たせいで、ぶつかってしまったらしい。
「オイオイ、痛ぇじゃねーの」
「あ、あの、す、すみません……」
高圧的に睨みつけられ、身体がすくむ。
立ち上がることもできずに肩を縮こませるなずなに、男が近づいてきた。
「で、どうしてくれんの?責任取ってくれんの?」
「えっ、と……その……」
謝ったけど、許してもらえない。
せ、責任を取るって……何をすればいいの……?
申し訳なさとどうしていいか分からない戸惑いで困り果ててしまう。
口をついて出てくるのは震えた吐息ばかりで、言葉を発せないでいると、不意になずなと男の間に人影が割り込んできた。