第12章 まさかの恋敵
伏黒は沸々と募る苛立ちを懸命に抑え、困惑した女性に目を向けた。
とりあえず、無関係のこの人を早く解放しなければ。
虎杖達の奇天烈な行動を咎めるのはその後だ。
「大丈夫、気にせず行ってください。駅はここをまっすぐ行った先です」
駅までの道のりを教えると、女性は軽く会釈して去っていった。
「……ん?」
予想外の展開に五条と虎杖は首を傾げる。
逆ナン……ではなかった?
「……で、マジで何なんですか?恥ずかしいんでやめてもらえます?」
ゴゴゴと効果音がつきそうな形相で伏黒が向き直った。
五条は誤魔化すように意味不明な方向を指すばかりで説明はない。
虎杖も野薔薇も悪びれるように苦笑いするだけで何の弁明もなかった。
「とにかく渡辺を追います」
また迷子にさせるわけにはいかない。
何より走り去る間際、泣きそうな顔をしていたのが気がかりだった。
伏黒はあからさまな舌打ちを残して、なずなが行ってしまった方向へ走り出した。
「解散にする?恵が帰ってくるのを待っててもいいけど、あれじゃ当分怒りは収まらないだろうし」
帰ってきても怒りをぶつけられるだけなら、解散して煙に巻いた方が都合が良い。
一方、虎杖と野薔薇は意図せず伏黒となずなが2人きりになる状況を作れたため、この機会を逃したくはなかった。
時間差で伏黒を尾けて、あわよくば一部始終をカメラに収め……それは少し悪質かもしれないが、五条がいると邪魔なのは確か。
利害の一致というやつだ。
「いいわね、賛成」
「俺も」
じゃ、今日は解散で、と手を振った五条は、そのまま駅の方へ歩いていった。
五条が完全に見えなくなるまで見送ると、2人はどちらともなく顔を見合わせてうなずき、急いで伏黒を追った。