第12章 まさかの恋敵
なずなは商店街の人に道を聞き、なんとか大通りまで出てきていた。
ここまで来られたら、連絡して向こうにも大通りを探してもらえば、合流できそうだ。
もう一度、勇気を出して電話しようと、携帯電話を取り出す。
連絡先を選び、通話ボタンを押そうとしたまさにその時……
遠くから伏黒を呼ぶ声が聞こえた。
あれ……?
今の野薔薇ちゃんと虎杖くんの声?
で、でも普段と呼び方が全然違うような……
戸惑いながらも、そちらに3人がいそうなので、急ぎ足で向かった。
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目の前で繰り広げられる光景が、なずなには信じられず、思わず二の足を踏んだ。
虎杖くんと野薔薇ちゃんが伏黒くんに抱きついて、私の瞳に乾杯した夜だの、一緒にいるときが一番楽しいだのと言っている。
え、え……?
ど、どういうこと?
いつの間にそんなことがあったの?
「ちょっ、ヤバッ……!」
足音に気づいた野薔薇が立ち尽くすなずなを発見し、虎杖の服を引っ張る。
「わ、私、その、全然知らなくて……ごめ、なさ……」
ふるふると小さく震え、瞳を揺らすなずなは今にも泣き出してしまいそうだ。
これには虎杖も野薔薇も焦った。
なんでこんな時に限って、自力で迷子から脱却なんてミラクルが起こるんだ……!
2人とも素早く伏黒から離れ、弁明を始める。
「渡辺、今のはただの冗談だかんな!?」
「そうよ!誰がこんなムッツリなんか」
「そんな……えっと、そ、それはつまり、伏黒くんのことは遊びだってこと……?」
ダメだ、トンデモ方向に誤解されてしまった。
たぶんこれは弁解すればするほど誤解が深まるパターン。
軽率だった……!
虎杖と野薔薇は思わず天を仰ぐ。
ちなみに伏黒はというと、何なんだと引き気味だ。
一周回ってコントのようになっているので、なずなもこの茶番劇に参加させられていると思い込んでいることだろう。