第12章 まさかの恋敵
伏黒は任務の報告書を持ってなずなを探していた。
少し修正を入れていいかの確認だ。
食堂に彼女を見つけ、特に気にもせず普段通りに声をかけた。
「渡辺、ちょっといいか?この前の任務の報告書……」
「っ!……ご、ごめん、ちょっと今から用事があって……!」
ビクリと肩を揺らしたなずなは伏黒の顔も見ずに、そそくさと逃げるように教室から出て行く。
「……何なんだ……?」
置いてけぼりになった伏黒は、何が何だか分からないといった表情で立ち尽くしていた。
なずなは慌てて食堂を飛び出し、走って自室に引っ込んだ。
大した距離ではないのに、心臓はドクドクいっているし、息が上がっている。
肩で息をしながら、ズルズルとその場に座り込んだ。
伏黒くんのことが好きなんだと自覚した後、自分でも信じられないくらい、伏黒くんと話すことができなくなった。
伏黒くんの声を聞くと、顔が熱くなって、頭がまともに回らなくなる。
何を話していいのか分からなくなってしまう。
さっきもそうだ。
咄嗟に用事があると嘘をついて、逃げてしまった。
報告書って言っていたけれど、大事な用事だったらどうしよう……?
そもそもどうしてこんな風になるのか、なずな自身にも訳が分からなかった。
……前はもっと普通だったはずなのに。
普通に顔も合わせられたし、言葉も交わせた。
どうしたらドキドキせずに顔が見れるの?
ちゃんと話すにはどうすればいいの?
もう今となっては、あの時どうやって普通に接していたのかも分からない。
「なんで……どうして……?」
人を好きになるって、こんなに苦しいの?
どうしていいか分からなくて、ただただ涙がこぼれてきた。