第3章 彼の心配の種
まずい。非常にまずい。
集合時間まであと1分もない。
そして校門までの道が分からない。
昨日は寮を出て講堂のような建物を曲がり、校舎を右手に見ながら進むと、石灯籠の並んだ通りに出て、その先が校門だったはずなのだ。
だが、今日は校舎を一周しても石灯籠の道が見当たらない。
伏黒くんに電話しようか?
でも昨夜も助けてもらったばかりだ。
昨日迷子になって、たった十数時間でまた迷子なんて、申し訳なくてとても言えない。
どうしようとウロウロしていると、なずなの背後に大きな影がぬっと現れた。
「なんか困ってるのか?」
なずなが振り向くと、巨大なパンダが自分を見下ろしていた。
「きゃああああぁぁっ!」
パ、パンダ!?
パンダがしゃべっている!
野生のパンダに遭遇したら、死んだフリ?
いや、そもそもなんで高専にパンダが?
まさか、上野動物園から脱走してきたの!?
パニックになりかけているなずなにパンダは頬を掻く。
「いきなり悲鳴って、傷ついちゃうなぁ」
「ワタシ、タベテモ オイシクナイ デス……」
「まずは落ち着けよ、パンダは草食だぞ?……まぁ、俺は笹食わないけどな」
刀を持っている女子生徒。
五条の言っていた新入生だろう。
「俺は見ての通りパンダ、呪骸ってやつだな。高専の2年だ」
パンダの自己紹介になずなも落ち着きを取り戻す。
呪骸、それならパンダ姿にも納得がいく。
……待って、高専の2年?
「せ、せせ、先輩!?」
「よろしくな」
「すみませんでした……!1年の渡辺 なずなです」
なずなは慌てて頭を下げる。
「別にいいって。で、どうしたんだ?確か1年は課外授業だって聞いたが」
「あの、校門に集合って言われてたんですけど、迷ってしまって……」
集合時間はとっくに過ぎている。
今更ながら、焦りが湧き上がってきた。
「校門なら反対方向だぞ。ほら、こっちだ」
ここは似たような建物が多いし、入学間もなければ迷うのも無理はない。
口頭で道を教えてもよかったが、顔面蒼白のなずなを見るに、連れていってやった方が確実だろう。