第11章 いざ行かん、夢の国
朝早くの電車に乗り、野薔薇念願のTDLに着いたのは、開園の1時間半前。
それでも入場ゲート前にはかなり列ができていた。
ただ、並んで暇を持て余すということはなく……
「やっぱここは押さえときたいわよね」
「俺、ワッフル食いたい!」
野薔薇も虎杖も夢の国を目前に浮き足立っていた。
並んでいる他の客も楽しみにしているのが雰囲気で伝わってきており、長い列にうんざりしている者はほとんどいないようだ。
そんな中、なずなは何やら真剣に園内マップを見つめていた。
「……」
「渡辺、どうしたんだ?」
伏黒に声をかけられ、またもなずなの心臓が跳ねた。
「……え、えっと、どうやったら効率的に皆の行きたい場所を回れるか、考えてる」
どういうわけか言葉に詰まってしまう。
そこへ野薔薇が口を挟んだ。
「なずな、ここまで来たらあとは楽しむだけでしょ?夢の国は目の前よ、そんな現実的な思考してたら、夢見らんないじゃない」
「違うよ、野薔薇ちゃん」
野薔薇には普通に返答できたことを若干不思議に思いつつ、なずなは続けた。
「今日一日夢を見られるかどうかは、入場直後の動きにかかってるの」
人気アトラクションは2〜3時間待ちだってザラじゃない。その上、食事時はレストランも待ち時間が長くなる。
列に並んでばかりでは、せっかくの夢も色褪せるというもの。
しかも野薔薇は初TDLだ。
夢の国の初めての思い出が長蛇の列など、悲しいにも程がある。
何度かそういう経験もあるなずなは、野薔薇にはそういうのではなく、楽しい思い出を残してほしいのだ。