第10章 東京・京都姉妹校交流会
一方、グラウンドから少し離れた観覧席では、夜蛾と楽巌寺が並んで座っていた。
2人の足元では、蟻が行列を作っている。
「まだ、虎杖が嫌いですか?」
「好き嫌いの問題ではない。呪術規定に基づけば、虎杖は存在すら許されん。彼奴が生きているのは五条の我儘……個のために集団の規則を歪めてはならんのだ。何より虎杖が生きていることでその他大勢が死ぬかもしれん」
結局のところ、楽巌寺が一番危惧しているのはそこだ。
1000年間生まれてこなかった宿儺の器。
両面宿儺をこの世から消し去れる可能性を持つ唯一無二の存在。
しかし、前例がない故に両面宿儺の指を取り込ませ続けてどうなるかなど、誰にも分からない。
ある程度の本数を取り込んで、虎杖自身が宿儺を制御できなくなり、両面宿儺が表に出てきたら?
それこそ地獄の始まりになるだろう。
髭を撫でる楽巌寺に夜蛾はだが、と反論する。
「彼のおかげで救われた命も確かにある。現に今回東堂と協力し、特級を退けた。……学生に限った話ではありませんが、彼らはこれから多くの後悔を積み重ねる」
ああすれば良かった
こうして欲しかった
ああ言えば良かった
こう言って欲しかった……
夜蛾の脳裏に浮かぶのは、かつて最強と肩を並べた教え子。
「虎杖についての判断が正しいかどうか、正直私にも分かりません。ただ、今は見守りませんか?」
視線の先には野球に盛り上がる生徒達。
「……私達の後悔はその後でいい」