第2章 放課後遭難事件
迎えにきてくれるという伏黒の厚意になずなは感謝より申し訳なさの方が勝っていた。
「ここまで来てもらうなんて、悪いよ。線路沿いなら歩けるから、せめてもうちょっと近くの駅まで歩くよ……?」
『いいからその駅にいろ』
帰り道が分からなくなるほどの方向音痴だ。
仮に線路沿いを歩いて途中に徒歩で入れない道にぶつかったら、また迷子になりかねない。
「うん、ごめんね」
『今から向かうから、電話切るぞ』
「うん……」
この電話を切ってしまうと思うと、また独りになる不安がこみ上げてきた。
『どうした?』
「ううん、なんでもない、ありがとう」
本当は電話を切りたくないが、それでは伏黒を困らせてしまう。
なずなは待ちきれず、改札口のすぐ外をうろうろしていた。
電話で言われた到着時間までもうすぐだ。
電車から伏黒が降りてきたのが見える。
「伏黒くん!」
「随分遠くまで走ってきたな」
「なんだか疲れないなとは思ったんだよ。まさかこんなことになるなんて思わなくて……本当にごめんなさい」
お互い話し出すわけでもなし、帰りの電車内は静かなものだった。
電車に揺られていると、先程まであまり感じなかった疲労感がどっと押し寄せてきた。
はぁ、なんだか疲れたな……
電車の心地よい揺れも相まって、抵抗虚しくなずなの意識は深く沈んでいく。
不意に伏黒の肩にかかっていた重みが増した。
隣を見るとなずなが自分にもたれかかって寝息を立てていた。
入学初日に思いもよらぬ長距離走、さらには迷子になって疲労が溜まっていたのだろう。
寝かせといてやろうとそのままにしておく。
結局電車を降りるまでなずなは起きず、起きた後は伏黒に謝り倒すのだった。