第10章 東京・京都姉妹校交流会
五条の言葉になずなは更に目線を下に落とす。
自分が、どうすべきか―……
伏黒くんは、本当に辛かったら辞めていいと、
伊地知さんは、私ひとりの責任ではないと、
野薔薇ちゃんは、仕方なかったことだと言ってくれた。
呪術師を辞めたら?
こんな思いをすることはなくなるだろうか?
そう問いかけた時に、まず浮かんだのがそんなことはないという答えだった。
戦いから離れても、自分の力が及ばないことを後悔する時が必ず来る。
だって、高専に入学する前がそうだった。
……次同じようなことが起こって、誰かが死ぬとなったら、我慢できるの?
私の答えはあの時と変わらない。
―我慢なんてできない―
「私は……」
お父さんが鬼切に呪われた時
宿儺から虎杖くんを取り戻せなかった時
伏黒くんを守るために日野さんを殺してしまった時
私にもっと力があったら、違う結末になってたかもしれない。
だから―……
「強くなりたいです。いざという時に少しでも多くの選択肢を選べるように」
なずなは俯きながら、しかしはっきりと答えた。
「だったら受け取ってよ。等級が上がれば、それだけ強い呪霊を祓う任務も増える。強くなる近道になるよ」
なずなが新しい学生証を握りしめたのを見て、五条の口が弧を描く。
――恵、オマエが思ってるより、なずなはずっと強い子だよ。
「ま、あんまり深く悩みなさんなって。学生なんだから、もっと青春しないと。なんかないの?甘酸っぱーい恋とかさ」
急に話題を変えた五条になずなは反応が遅れた。
こ、恋……?
ふと風邪を引いた時のことが蘇り、ぶわりと顔に熱が集まる。
「……な、何言ってるんですか!?」
なずなが顔を赤くして言い返すのを見て、おや、と少し驚く。
思わぬ手応え、なずなの傷心を少しでも忘れられる清涼剤になるのなら上々だ。
追求したい気持ちをここはグッと抑える。
細かいことを根掘り葉掘り聞き出すのは、もう少し時間を置いてからの方が絶対に面白そうだと五条は更に笑みを深めた。