第2章 放課後遭難事件
「……五条先生、遅いね」
始業のチャイムが鳴ってしばらくしても五条は現れなかった。
「大丈夫だろ。五条先生はよく遅刻するし」
「そうなの?」
なずなが伏黒の方に振り向こうとしたとき、ガラリと教室の戸が開き、五条が入ってきた。
「こんにちは、生徒諸君!さて、お互いもう知ってるかもしれないけど、自己紹介、いってみようか!」
「伏黒 恵……」
「わ、渡辺 なずな、です……」
沈黙。
「……名前だけって、寂しすぎじゃない、もっと何かないの?」
しかし伏黒は口数が少ないし、なずなもおとなしい性格だ。
仕方ない、このグレートティーチャーが話題を振ってやろう。
「じゃあ、なずな、好きな食べ物は?」
「え?……えっと、好き嫌いはないです」
小さい頃からなんでも好き嫌いせずに食べるよう躾けられてきたので、とっさに答えてしまったが、五条の表情を見るに彼の望むような答えではなかったらしい。
「つまんないな〜、得意料理は?」
次に聞かれたのは得意料理。
これもなずなは答えに詰まる。
今まで料理の手伝いをすることはあっても、自分で最初から最後まで作ったことは数えるほどしかない。
その中で得意料理と言われても……
「……さ、刺身、とか……?」
「切ってるだけじゃないか、それ」
伏黒の指摘になずなは頬を膨らませる。
「そんなことないよ、飾り切りとか大根の桂むきもできるし、器と魚があれば、舟盛りとかもできる……はず」
やったことはないけれど。
「あ!あと、右手でも左手でも包丁使えます」
「それはそれですごい器用なんだろうけど……なんか地味だね」
ガーン
そんな効果音は鳴ってはいないが、なずなはそれくらいの衝撃を受けた。
「……す、すみません……」
別に責められたわけでもないのに謝罪の言葉が出てしまう。
「あんまり気にするなよ。五条先生はいつもあんな感じだ」
「うん……」
しおしおと肩を落としたなずなを伏黒が励ました。