第9章 弱り目に祟り目
「伏黒から任務のこと聞いたわ。アンタも伏黒もピンチだったらしいじゃん、今回のことは仕方なかったんじゃない?」
部屋着に着替えたなずなが戻ると、野薔薇がそう切り出した。
今回のこと――
自分が日野 雪子を殺害してしまったことだ。
梔子駅に伊地知さんが迎えに来てくれたのは野薔薇ちゃんが連絡してくれたからだった。
伏黒くんは、私が自殺しようとしたのを止めてくれた。
伊地知さんは、私の選択が間違っていないと言ってくれた。
野薔薇ちゃんは、私を心配して任務が終わってすぐここに来てくれている。
その優しさを改めて噛みしめる。
「うん……」
胸の中の昏い気持ちが消えたわけではないけれど、過去は変えられない。
今後こんなことが起きないように、未来のことを考えるべきだろう。
なずながうなずいたのを見て、話はこれで終わりと言わんばかりに野薔薇が手をひとつ叩いた。
「ま、そんな辛気臭いこといつまでも考えてたって何にもならないわ。そんなことより京都よ!京都!」
野薔薇が興奮気味に雑誌を広げてなずなに見せる。
その雑誌のタイトルは『京あそび 完全ガイド』。
「……うん……?」
なんで京都のガイドブックが出てきたのか、なずなはついていけない。
反応がイマイチのなずなに、野薔薇が怪訝な顔をする。
「何ポカンとしてんのよ、もうすぐ交流会でしょ?なずなは京都でどこか行きたい所とかないの?」
「え、えーっと……一条戻橋、とか……?」
なぜ交流会と京都観光がつながるのか、京都校の人達に観光名所でも教わるのだろうか?
なずなは一抹の疑問を感じつつも、ここへ行きたい、あそこでこれが食べたいとガイドブックのページにフセンを貼っていく野薔薇を止められなかった。