第9章 弱り目に祟り目
ふと汗とは違う水の感触を覚えて、伏黒は読み途中の本から顔を上げた。
なずなに握られている方の手が濡れている。
水の跡を辿ると、なずなが涙を流していることに気づく。
「…………ぃ……」
眠っているのを起こすのもどうかと思い、声をかけずにいると、なずながかすかに呟いた。
何を言っているかまでは分からず、伏黒は耳を近づける。
「ふしぐろくん……呪って……ごめ、なさい……」
途切れがちに紡がれた懺悔の言葉。
思い当たるのは昨日の出来事。
もちろん伏黒はあれが呪いなどとは思っていない。
なずなはもう十分苦しんだはずだ。それなのにまだ罪を背負い込もうとしている。
こうなると何を言ってもなずなの負担になってしまうかもしれない、そんな考えも頭をよぎったが、それでも伏黒は言わずにはいられなかった。
「呪ってなんかねぇよ。仮にそうだとしても俺は呪術師だ。オマエに呪われたってなんてことない」
眠ったなずなに聞こえるかどうかは分からないが、苦しげに寄せられた眉が少し緩んだように見えた。
うっすらとした意識の中に届いた低い声。
その優しい声に安堵して、なずなの意識は深く沈んでいった――……