第2章 放課後遭難事件
手先は冷えきり、背中に嫌な汗が流れているのが分かる。
自分はどうして呪術師になりたいのか?
父が言っていた誇り高い仕事に憧れて?
いや、そんなに強く憧れてはいない気がする。
なんとなく、渡辺家の人間なら呪術師になるのが当然だと、心のどこかで思っていたのだ。
学長に何も考えていないと言われるのも仕方ない。
では、鬼切に選ばれてしまったからだろうか?
それこそ流されている。
結局流されて呪術師になりたいと言っている自分がいる。
それでは、そんな理由では呪術師になれないと言外に伝わってくるのに。
熱くなった脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックした。
血を流して倒れている兄、自分の腕の中には真っ白な顔の弟。
呪霊に飲み込まれかける母。
そして、血に塗れた鬼切を手に襲いかかってきた父。
もう、あんな思いはしたくない。
思い出したくなくて、考えないようにしていた。
だが、これだけは間違いなく自分の意思だと言える。
「私の術式で鬼切の呪力を消費して、世代交代の呪いを弱めるために……私はもうあんな思いをしたくないし、将来の世代にもさせたくない。だから、呪術師になりたいです」
なずながまっすぐ見つめた先、夜蛾は静かに告げた。
「合格だ。ようこそ、呪術高専へ」