第9章 弱り目に祟り目
野薔薇から渡された市販の風邪薬は、空腹時を避けて服用することと書いてある。
なずなはまだ朝食を食べていないし、昨日もおそらくほとんど食べてない。しかも一昨日は嘔吐してしまっている。
薬を飲ませる前に何か食べさせないと胃が荒れてしまう。
苦しそうな呼吸を繰り返すなずなに目を向ける。
家族と虎杖が死んで、その上今回の任務で人を殺して、精神面は相当消耗していたのだろう。
この部屋に物が少ないのも、彼女に心のゆとりがなかったからなのかもしれない。
だんだんと意識が浮上してきた。
身体は熱いのに、寒気がする。
重い瞼を開けると、ベッドの横に見慣れた黒髪。
「ケホッ、……ぅ、ん……ふしぐろくん……?」
喉が痛んで掠れた声しか出なかったが、その小さな声も伏黒には届いた。
読んでいた本から顔を上げた伏黒と目が合う。
「起きたか……とりあえず水飲めるか?」
伏黒は小さく咳をして目を覚ましたなずなにミネラルウォーターを開栓して渡した。
重い身体をなんとか起こして、それを受け取り、少しずつ飲んでいく。
喉が腫れて、飲み下す度に痛んだが、渇いていた身体はそれ以上に水を求めている。
「何か食えそうか?雑炊とかなら作れるぞ」
「……お腹、空いてない……」
なずなは小さく首を横に振る。
空腹でないのは事実だった。
昨日の朝から何も食べていないはずなのに、なぜか一切空腹を感じない。
それにこれ以上伏黒に迷惑をかけるのも気が引ける。
「昨日からほとんど食ってねぇだろ。少しでいいから、何か食っとけ」
「……じゃあ、雑炊……」
「分かった。台所にある食材、使っていいか?」
「うん……」
ごめんね、と小さく謝ると、謝んなと優しい声でたしなめられた。