第9章 弱り目に祟り目
「風邪だな。薬を飲ませて1日安静にさせとけ」
なずなを診察した家入が伏黒と野薔薇に向き直った。
家入自身も医師免許は持っているので、処方箋を出せないこともないが、薬局は遠いし、もともとなずなは身体が丈夫だ。
これくらいなら市販の風邪薬で治せる。
「目を覚ましたら、まずは水分を摂らせろよ。汗をかいてだいぶ失ってるから」
家入が出ていった後、野薔薇は顎に手を当てて考え込んでいた。
「困ったわね……」
「どうした?」
「今日、なずなと任務だったのよ」
だが、この状態ではなずなが任務に出るのは到底無理だ。
心配だからせめて薬を飲ませて熱が下がるまではここにいたいが、おそらく野薔薇は任務を外されないので、それも無理。
「俺が任務代わろうか?」
二級術師の自分なら単独でも問題ない。
幸いもともと休日だったので、今日は何もない。
と、思ったのだが。
「無理ッス」
補助監督の新田が両手でバッテンを作る。
「え、なんで?」
「伏黒君、働きすぎなんスよ。休日を取らないと労働基準法的にアウト」
「未成年働かせといて、今更労基法とかあんの?」
「そもそも学生の任務自体、学校の実習ってことで大目に見てもらってるんス。いわゆるグレーゾーンッスね。で、伏黒君の場合、連日任務が続いてるんで、今日は休んでもらわないと」
しつこく食い下がってみたものの、結局野薔薇は任務を外されず、休日を言い渡された伏黒がなずなの様子を見ることになった。
「私が帰ってくるまで、なずなのこと頼んだわよ」