第9章 弱り目に祟り目
優しさが身に染みる。
そしてぐちゃぐちゃになった感情が堰を切ったように溢れ出してきた。
「……っ、苦しいの。胸がずっと痛い……あの人を切った感覚を、手が、覚えてる……!私の手、ずっと赤くて……」
なずなが押し潰されそうになっている胸の内を嗚咽混じりに話す。
伏黒はうなずきながら、静かに聞いた。
「悪かった。俺があの呪詛師にもっと気をつけてれば……」
「伏黒くんが謝ることじゃないよ……!」
あの時、日野 雪子が呪術を使う前に呪詛師かどうか判断するのは非常に難しかった。
しかも伏黒は呪霊と戦いながらだったのだ。
本当は自分が雪子を止めなければならなかったのに。
なずなの思いとは裏腹に伏黒は首を横に振る。
「いや、ここまでオマエを追い詰めた……それが俺の罪禍だ。だから、俺にも半分渡せ」
その苦しみを半分。
それで渡辺の心のつかえが少しでも軽くなるなら、押しつけてもらって構わない。
むしろ、なぜあの呪詛師を拘束するだけに留め、気絶させなかったのかと責める権利だって、彼女にはあるはずだ。
しかし、なずなの性格上、そんなことはしない、というよりできないだろう。
ならばせめて、その負荷を少しでも軽くしてやりたい。
2人しかいない梔子駅のホーム。
次の電車が来るまでの少しの間、なずなは伏黒の腕の中で泣きじゃくっていた。