第9章 弱り目に祟り目
「クソッ、電話が切れた」
思わず拳で机を叩く。
「……ダメ、先輩達もなずなの行き先知らないって」
伏黒とは別に2年生に連絡をとっていた野薔薇も力なく首を横に振る。
「渡辺は間違いなく外だ。電話口から雨音がした」
どこだ、渡辺はどこにいる?
電話が切れるまでのわずかな時間、雨の音とは別の音が聞こえた。
耳に残る規則的な警報音……あの音は……?
「……踏切か?」
電話に出た時、渡辺は踏切の近くにいた?
入学早々に迷子になってから、渡辺はどこかに外出するときは、必ず誰かに行き先を伝えていた。
しかし今回は誰も行き先を知らない。
今朝、報告書を作っていたときの憔悴しきった顔が頭から離れない。
あんな状態で一体どこに?
踏切の音がしたということは、電車に乗るつもりなのか?
しかし、渡辺の部屋を確認した釘崎は、外出するときに持っていく鞄は残っていたと言っていた。
いや、そういえば渡辺はいつも制服のポケットに財布を入れていたか。
となると、電車にも乗れるが……
踏切、電車、駅――……
まさか梔子駅に行ったのか……?
思い当たった最悪のシナリオに、居ても立っても居られず、伏黒は食堂を飛び出した。
「ちょっ、伏黒!どこ行くのよ!?……ったく、アンタの方こそ全然冷静じゃないじゃん」
そう文句を言いつつ、野薔薇はスマホを手に取った。