第9章 弱り目に祟り目
白く煙るように降り始めた激しい雨はまるで檻のよう――
それは罪を犯した者を閉じ込めるためのもの。
自分のためにあるようなものだとぼんやりと感じながら、なずなはその雨に打たれていた。
昼に野薔薇と分かれた後、一度部屋に戻ったが、いたたまれなくて出てきてしまった。
罪人の自分が、高専にいてはいけないと思った。
自首しようと1人で警察に行こうとしたが、道に迷ってたどり着けなかった。
今、自分がどこにいるのかすら分からず、ただただ土砂降りの雨の中を歩いていると、制服のポケットにいれた携帯電話が着信を知らせる。
取り出すと伏黒からの着信。
『渡辺、どこにいる?夕立すごいけど、傘持ってるか?』
耳を潰すような激しい雨音の中でも、その声は鮮明に聞こえた。
今朝も聞いたはずなのに、懐かしく感じる声。
「……えっと、わたし……」
ブツ――……
突然、電話が切れてしまった。
「?」
不審に思ってボタンを押すが、雨に濡れた画面は真っ暗なまま、反応がない。
諦めてポケットに携帯電話を戻す。
カンカン、カンカンと警報音が鳴り、すぐ側の線路を電車が走っていった。
自分の他に歩く人はおらず、ひとりぼっち取り残されたような、そんな感覚。
重く冷たい雨粒が痛いくらいに身体を叩く。
それでも腕に焼きついた赤色は落ちる気がしなかった。