第9章 弱り目に祟り目
「ちょっと伏黒、なずなに何かあったの?」
「渡辺はどんな様子だった!?」
尋ねてきた野薔薇に伏黒は食い気味に聞き返した。
伏黒が何やら焦っている。
柄にもないその様子に野薔薇も只事ではないと察し、昼間のなずなとの会話を打ち明けた。
「昼にトイレで手が真っ赤になるまで洗ってたのよ、赤いのが落ちないって。昼食べたの?って聞いてもぼんやりした感じだったし……」
今度は野薔薇が聞く番だ。
「で、私が真希さんと任務に行ってる間に一体何があったのよ?」
任務に行く前まで、なずなには特に変わった様子はなかった。
今回の伏黒との任務が原因のはず。
伏黒は野薔薇に睨まれながら、任務の詳細を話し始めた。
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「……それで渡辺が、呪詛師を殺した」
悔しげに顔を歪める伏黒を、それでも野薔薇は責めずにはいられなかった。
「アンタがついていながら、なんで!?」
人を殺して、なずなが平気でいられるはずがない。
トイレで執拗に手を洗っていたことにも納得がいった。
真面目ななずなのことだ。
罪の意識で間違いなく自分を責めてしまう。
「私、なずなの様子見てくるわ」
少しして食堂に野薔薇がバタバタと駆け込んでくる。
「なずな、いないんだけどっ!?」
「部屋に戻ったんじゃないのか!?」
「いなかったのよ!靴もなくなってた……鞄は残ってたけど、外に出てっちゃったんじゃない?」
その時、轟々という音とともに激しい夕立が降り始めた。