第9章 弱り目に祟り目
梔子駅での一連の事件は、林 敦美の呪霊を祓い、呪詛師だった日野 雪子を殺害したことで解決した。
その報告書を作成している最中に、伏黒に新たな任務が入ってくる。
こんな時に限って、と伏黒は舌打ちしたくなった。
事件解決からまだ数時間、なずなの顔色は悪い。
1人で報告書を書かせるのは酷だ。
「悪い、任務入った。報告書、書くの無理そうなら置いとけよ。俺が帰ったらやっとくから」
「……ううん……やる……」
なずなは首を横に振り、消え入りそうな声で答えた。
伏黒くんは今から行く任務の報告書も書かなくちゃいけない。
こんなに気遣ってもらって、さらに負担はかけられない。
伏黒が任務に出た後、なずなは再び机に向かう。
報告書は半分以上書けている。
残りは少し……
あと書くことは、日野 雪子さんが感覚を共有する呪術と他者に化ける拡張術式を持っていたこと。
私の姿に化けて呪霊と戦っていた伏黒くんに感覚共有の術式を使ったこと。
そして、私が……
「……ぅ、ぁ……」
手が震えて、字が書けない……
すぅと血の気が引いて、冷や汗が出てくる。
書かなくちゃ……
同じようなことがもう起こらないように……
あの時のことは、私が一番よく分かっているはず。
思い出さなくちゃ……
書かなくちゃ、いけないのに……
「……っ、」
うまく息ができない。