第8章 同罪
ぼうっとしたまま、なずなは高専へ帰る車の後部座席に座っていた。
手の震えが止まらない。
全身の寒気が収まらない。
鬼切が肉を切り裂き、骨を断つ生々しい感触が、今でも手に焼き付いている。
私が殺してしまったあの人、痛かっただろうか。
あんな風に斬ってしまったのだ。痛かったに決まってる。
きっと、痛くて、最期まで苦しい思いをしたに違いない。
殺さなくても、止められたんじゃないか。
あの時、私はいとも簡単に、一切も迷わず手を下してしまった。
……自分のことが、どうしようもなく気持ち悪い……
頭の中がグルグルして、目もチカチカする。
「渡辺?……伊地知さん、車止めてください!」
なずなの異変にいち早く気づいたのは、隣に座っていた伏黒だった。
車を止めてもらい、真っ青な顔で脂汗をかき、口元を手で押さえているなずなを引きずるように車外へ連れ出す。
「うっ、……ゲホッ、ゲホッ」
なずなは膝から崩れ落ち、その場に吐いてしまった。
後から後からせり上がってくるものを飲み込もうとするができない。
「渡辺、吐き気を我慢するなよ」
荒い呼吸を繰り返すなずなの背をさすってやる。
「私は水を買ってきます……伏黒君は渡辺さんをお願いします」
伊地知の言葉に伏黒もうなずいた。
伊地知は少し離れた自販機の前でため息を吐く。
伏黒から梔子駅で起こったことの顛末を聞いた。
実は日野 雪子が呪詛師で、取り憑いた呪霊と共に復讐を繰り返していたこと。
なずなが日野 雪子を避難させようとしたが、呪術をかけられて足止め、伏黒も呪霊と戦っている最中に同じ術式を食らってあわや殺されそうになったこと。
そして、なずなが日野 雪子を斬り殺したこと。
幸い伏黒となずなに大きな怪我はなかった。
呪霊も祓い、任務も完了した。
しかし、なずなは心に深い傷を負ってしまった。
呪詛師殺しはほとんどの呪術師が通る道だ。
だが、なずなはまだ15歳。
いくらなんでも早すぎる、というのが伊地知の思いだった。