第8章 同罪
動けないなずなに代わって、伏黒が血溜まりに沈んだ雪子の遺体から鬼切を抜き取った。
刀身に付着した血を刀を振って払い落とす。
呪詛師を殺した。
それ自体は呪術師をやっていれば、いつかは向き合わなければならないことだ。
伏黒も覚悟はできていた。
でも、渡辺は?
この4月に呪術師になったばかり。
まだ半年も経っていない。
覚悟なんてしている暇もなかっただろう。
少なくとも、自分より先に渡辺が呪詛師を手に掛けることはないと、心のどこかで思っていた。
だが、現実は違った。
伏黒が鬼切を持っていくと、震えているなずなはようやく顔を上げた。
帷の中でも分かるほど、蒼白になっている。
「ふしぐろ、くん……わ、たし……」
人体を斬りつけた感触が鮮明に思い出され、悪寒がする。
立てるかと差し出された伏黒の手を取ろうとして、血塗れの自分の手が目に入り、思わず引っ込める。
「気にするなって言っても無理だろうが、少なくとも俺はオマエのお陰で助かった。……それだけは確かだ」
伏黒の手が伸びてきて、なずなの手を包み込む。
自分のよりも大きな男の人の手。
自分とは違うきれいな手。
血で汚すのがためらわれて、さらに手を引っ込めようにももう掴まれてしまっている。
以前、伏黒くんと初めて出会った時も同じように自分の血だらけの手を取ってくれた。
でも、あの時とは決定的に違う。
私の手は……
「……ごめんなさい……」
「渡辺?」
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
私はなんてことをしてしまったんだろう。
1人の命を奪った。
どんなに謝っても、償っても、許されないことをした。
ごめんなさい――
伏黒はひたすら謝り続けるなずなを立ち上がらせ、日野雪子の遺体が目に入らないよう、なずなの視界を遮るように歩いて駅を出た。