第8章 同罪
「……あと少しなの、邪魔しないで」
「俺がその頼みを聞く義理はねぇよ。これ以上犠牲が出る前にあの呪いを祓う」
「あたしの友達をいじめて殺したヤツらよ。死んで当然だわ。これが終わったら、あたしはどうなっても構わない」
雪子の真剣な訴えも伏黒が聞き入れることはない。
伏黒にもこの呪霊を祓わなければならない明確な理由があるからだ。
――この呪霊のせいで渡辺は電車に撥ねられ、死ぬところだった。
どれだけ言い繕おうとも、その事実は揺らがない。
ただでさえ強力な呪霊。
その上、仲間を傷つけられたとあらば、見逃す道理はない。
渡辺は無事だが足止めしているという言葉はおそらく本当だ。
いくら不意打ちだろうとこんな奴に渡辺は殺されない。鬼切の反転術式があればなおさら。
他人の姿に化ける術式を使うようだが、それだって見破ってしまえばどうということはない。
「……あの呪いを祓えば、アンタの身体だって……」
「もう手遅れよ。あっちゃんの呪いを受けて身体はボロボロ。あたしはいいの、こんなのあっちゃんが受けたいじめに比べたらなんでもない。でも間に合わないのだけはダメ、我慢ならない」
「……アンタがどう思おうが、俺は呪霊を逃すつもりはない」
なおも冷たく言い放つ伏黒に、交渉の余地なしと悟った雪子は俯く。
「……そう、ならいいわ」
範囲内の人間や呪いと感覚を共有する鏡感呪法。
共有する対象が多くなるほど、1人あたりに共有される感覚は弱まる。今で言うと、渡辺さん1人だけにかかっている痛みをこの少年と2人で痛み分けすることになる。
半分の痛みでどれだけこの2人を足止めできるか分からない。
でも、少しでも動きが止まれば、あっちゃんの攻撃が届く。
あたしとあっちゃんの邪魔させない……!
「鏡感呪法!」
「ぐっ、あっ!」
伏黒の全身に駆け巡った激痛。
なんだ、この呪術!?
日野 雪子はこんな術式も使えたのか?
もしかして、渡辺もこの術式を食らって足止めされてるのか?
集中力が途切れ、式神の姿も崩れ出した。
まずい、術式が解ける……っ!
雪子は蝦蟇の拘束から逃れ、呪霊も玉犬が消えたことでこちらに襲いかかってくる。
「クソッ……!」