第8章 同罪
梔子駅のホームにくっきりと残された残穢に伏黒は絶句した。
「なんでこれに気づかなかったんだ……」
渡辺が気づかなかったのは仕方ない。
とてもそんなことに気を回せる状態じゃなかった。
でも俺は……!
ギリと歯噛みしている伏黒の少し後ろで、なずなはホームから線路を覗き込んでいた。
「伏黒くん、私、今朝この辺から線路に落ちたんだけど、誰もいないのに後ろからすごい勢いで押されたの。そういう呪術だったのかな?」
残穢があるということは、呪術が使われたということだ。
しかし、どのような呪術かまでは分からない。
「……残穢だけだと判断つかねぇな。でも残穢の中心はここだ。遠隔で攻撃できる呪術かもしれない」
伏黒が立っている残穢の中心からなずなが線路に落ちた場所までは、10歩ほど離れている。
残穢の状態から呪霊がここで呪術を使ったと考えるべきだが、今朝はホームに通勤・通学客がたくさんいた。
その中からなずなを狙ったということになる。
昨日、なずなが大内 秀子を救出したから、その報復あるいは邪魔されないように排除しようとしたのだろうか。
「……やっぱり呪霊はいないね」
鬼切も反応しないし、念のためと呼び出した玉犬も感知していない。
ホームを出て、駅の周りを確認していると、伏黒のスマホが伊地知からの着信を知らせた。