第8章 同罪
「伏黒君、後で渡辺さんにもお話ししますが、先ほど警察署に行った足で梔子駅にも寄ってきました。呪霊は確認できませんでしたが、残穢は残されていました」
「残穢、ですか?」
伏黒は眉を寄せる。
あの時、いくら気が動転していたとはいえ、自分が残穢を見逃すなんて考えにくい。
感知できなかったこともそうだが、原則発生した場に留まる呪霊が駅にいないことも謎だ。
いや、そういえば渡辺は、鬼切が反応したと言っていたか。
「渡辺が撥ねられたとき、鬼切が呪霊を感知してましたけど、渡辺も俺も見つけられませんでした。隠れるのが相当上手い呪霊がいたんじゃないかと思います」
「そうなると、呪霊のあぶり出しが必要ですね。多少危険ですが……」
「囮、ですね」
呪霊が囮に食いつけば、姿を見せる可能性がある。
幸い囮になり得そうな人物には心当たりがあった。昨日なずなが助けた女性だ。
ただ、いきなりその女性に囮になってもらうのはいくらなんでも危険すぎる。
まずは女性に話を聞き、呪霊の狙いを探るところからだ。
「昨日、渡辺さんが助けた女性は意識を取り戻して退院しています。まずはその方に連絡を取りましょう」
手がかりになる話があれば、呪霊がどこに潜んでいるかも推測できるかもしれない。
何より伊地知には少し気がかりになっていることもあった。
「もし、呪霊が駅や車両ではなく、人間に取り憑いていた場合、約11ヶ月にわたって取り憑いていることになります。人体への負荷は相当なものでしょう」
しかもその間に呪霊が強くなっていることを考えると、迅速に祓う必要があるだろう。