第8章 同罪
食べ終える頃に伊地知が病院に到着したと連絡が入り、退院の手続きもすんなり終わって、病院を後にした。
「渡辺さん、すみません。返却の手続きに手間取っていて、鬼切が戻ってくるのにはもう少し時間がかかります」
「いいんです。こちらこそ、警察に事情説明してくださってありがとうございます」
謝った伊地知にとんでもないと恐縮するなずな。
自分だけではきっと鬼切を取り戻せなかっただろう。
なにせさっきまで呪術師が武器を持ってもいいことすら知らず、捕まらないかとヒヤヒヤしていたのだ。
そうこうしているうちに高専に到着し、なずなはすぐ医務室へ連れていかれた。
「しかし、よくこれだけで済んだな……」
解剖台に広げられた制服を見て、改めて伏黒が眉をひそめた。
「……私もそう思う」
なずなも思わず同意する。
それほどまでに制服の損傷は激しかった。
あちこちがボロボロに破れ、全体に血痕が広がっている。
病院で言われた通り、制服のこの損傷具合でなずな自身は軽傷で済んだのは奇跡的だったのだろう。
「渡辺が大怪我したって?」
家入も医務室に到着し、包帯だらけのなずなを見て少し瞠目した。
「なんだ、元気そうじゃないか」
電車に撥ねられたと聞いていたから、最悪手足の切断なども考えたのだが、五体満足で歩行もできている。
さらに、家入の視線はなずなから解剖台の上にある制服に移った。
「……渡辺、反転術式でも使ったのか?」
「え、っと……?」
制服の血痕を見た家入から聞かれるが、なずなは身に覚えがない。
「普通はこの程度の怪我でこんな血痕はできないよ。しかも自力で這い出してきたんだろ?」
制服の状態だけ見ると、自力で動くなんて到底できない怪我だ。
思えば、少年院で宿儺に砕かれた右肘を診たときもおかしな砕け方だった。
自覚していないようだが、反転術式を使った可能性がある。
しかし、無意識に反転術式を使うなんてことがあるだろうか。