第8章 同罪
反対側のホームにいた伏黒は信じられない光景に目を疑った。
嘘、だろ……?
呪いの気配はなかった。
それに渡辺が自ら線路に飛び込んだように見えた。
駅のホームは一気に騒然となった。
なずなを撥ねた電車はホームの中ほどで止まり、駅員、車掌、運転手が利用客にホームから出るよう案内している。
ホームから出ようとする人の流れになんとか逆らって、伏黒は線路に下りる。
駅員の注意する声が聞こえたが、気にしていられない。
停車しようと減速していた電車はそこまでスピードは出ていなかったはず。
どこだ?
頼むから、生きていてくれ。
「ここだ、この下にいる!」
渡辺のいたホームから声がした。
1両目と2両目の間あたりからだ。
電車の下を覗くと線路の間からわずかに頭が見えるが、ピクリとも動かない。
「おい、渡辺!返事をしろ!」
クソ、暗くてよく見えない。
どこを怪我してる?出血はしてるのか?
蝦蟇を使って引きずり出そうにも、怪我の程度も分からないまま下手に動かすのはまずい。
なぜ、どうしてなんだ?
そんな疑問がぐるぐると頭の中を回り、全然整理できない。
「少し離れて!」
いつの間にか到着していた救急隊員に促され、伏黒は引き下がった。
悔しいがここで救助の邪魔をしてはいけない。
彼らは救助のプロだ。自分がやるより任せた方がいい。
そう言い聞かせるが、不安が拭いきれない。
伏黒が呆然と立ち尽くしていると、別の隊員から渡辺の名前を聞かれる。それに答えると隊員はすぐに救急車側に伝えていた。
「渡辺 なずな、15歳、女性」
怪我の状態に加えて呼びかけに応えないという伝達も漏れ聞こえ、肝が冷える。
どうして渡辺は線路に飛び込んだ?
鬼切を抜く素振りもなかったし、呪いの気配もまったくない。
なずなが電車に撥ねられたという事実を伏黒はどうしても受け入れられなかった。