第35章 断章 波乱万丈!成人の日
その後も蝿頭を気にしつつ話していると、なずなの前に鮮やかな赤色のカクテルが置かれた。
「あ、あの、頼んでないんですけど……」
「ああ、俺が頼んだやつ。渡辺さんにって思って」
田代は自分のグラスを少し傾けて小さく乾杯する。
「それね、オーロラっていうカクテルなんだ。飲みやすくて俺のおすすめ」
おすすめと言う割に田代本人は違うものを飲んでいるが、バー自体初めてのなずなにはそれが意図するところを察することはできなかった。
促されてひと口飲むと、口の中に甘酸っぱさが広がり、続いて強いアルコールの香りが追いかけてくる。
の、飲みやすい……?
こういうのが飲みやすいお酒なんだ……?
なずなにとっては決して飲みやすいと思えないカクテルだが、田代が頼んでくれた手前残すわけにもいかず、グラスが小さいこともあって少し無理をして飲み干した。
カッとアルコール特有の熱を喉に感じ、段々顔にも熱が昇ってくる。
さらに悪いことになずなが無理をしてグラスを空にする様子は田代には良い飲みっぷりと映り、勝手に2杯目を注文してしまった。
目の前に置かれたカクテルになずなは困惑する。
「こ、困りましゅ……」
「可愛い〜」
すでに酔ってきているなずなに田代は次へ次へとカクテルを勧めていった。
その行為が己の命運を左右するとも知らずに……
バーを出る頃には完全に酔ってしまい、足元もおぼつかなくなっているなずなは田代に案内されるまま、タクシーに乗せられ、ホテルに連れてこられていた。
アルコールで思考が鈍る中、なずなの頭に浮かんだのはただ一つ。
これで人目がなくなった、ということだけだった。