第33章 断章 全身全霊チョコレート・パニック!
野薔薇に引っ張られながら着いた教室には既に伏黒も虎杖もおり、なずなは抵抗する間もなく伏黒の前に突き出された。
「……えーっと、何事?」
野薔薇の剣幕に戸惑う虎杖に鋭い声が返ってくる。
「なずながいつまでもウジウジクヨクヨしてるから連行してきたのよ。ほらさっさとしなさい!」
バシッと強く背中を叩かれ、なずなは手にした小さな箱をおずおずと伏黒に差し出した。
「あ、あの、恵くん、ハッピーバレンタイン、これ、良かったらどうぞ……」
「ありがとな」
頬を朱に染めたなずなから白と黒にまとめられた小箱を受け取る。
綺麗に結ばれたリボンをすぐ外してしまうのはなんとなくもったいない気がして、授業終わりに開けようと決めた矢先、隣の席の虎杖が勢いよく立ち上がった。
「うおぉぉいっ、伏黒!リアクション薄すぎだろ!」
「何だよ」
なぜ虎杖が自分のリアクションを求めるのか意味が分からず眉をひそめると、なずなの後ろにいた野薔薇もこちらに身を乗り出して抗議してくる。
「『何だよ』って何よ!私達も死ぬ程味見したんだからな、もっと喜べ!!」
そういうことか。
確かにここ最近、なずながチョコレート作りの練習をしていたことは知っていた。
虎杖達や先輩達に配っているところを見かけたことも1度ではないし、担任の教師はこれ見よがしに自慢してきたし……
あの時に感じた小さな苛立ちを思い出し、わずかに顔を顰める。
皆が彼女の手作りのチョコレートを食べているのに、自分だけその輪に入れなかった。
謂わばずっとお預け状態だったのだ。
それに対して何も思わない伏黒ではない。
「オマエ達こそ狡ぃだろ。ずっと前からなずなのチョコレート貰ってたんだから」
本当はなずなの最初の手作りチョコレートは自分が食べたかった。
嫉妬という程でもない苛立ちを含ませて虎杖達を見返すと、特大音量の声が返ってきた。
「はぁぁあっ!!?」
「うるせぇ……」