第31章 断章 Happy Merry Birthday
なずなにはどうしても1人で作りたいという思いがあった。
伏黒から「手料理が食べたい」と言われたのもあるが、一番は料理の腕の違いだ。
そう、虎杖はなずなとは比べ物にならないくらい料理上手なのである。
2ヶ月の練習期間があるといっても、とても追いつけるものではない。
もし虎杖のパエリアとなずなのパエリアが同じ食卓に並んだら、間違いなく虎杖が作った方が美味しいに決まっている。
食べ比べになんてなろうものなら……
「なずなが思ってること、なんとなく分かったわよ。虎杖に手を出してほしくないんでしょ」
「!」
「え、なんで!?」
息を呑むなずなを見て、少しショックを受ける虎杖。
「あ、あの、決して虎杖くんがいるのが嫌とかそういう訳ではなくてっ」
「要は比べられるのが嫌なんでしょ、虎杖の方が料理上手いし」
「えぇー……伏黒ってそういうの気にするかな?渡辺が作ったやつなら喜んで食いそう」
「私も同感。多少不味くても愛情加点で合格点でしょ。絶対フィルター入るわよ」
頷き合っている2人になずなは反論する。
「そ、それじゃあ私がダメなの……!」
「うーん、でも渡辺1人で全員分作るのは全然手が足りないと思うよ?」
今見ているレシピは2人前の分量なので、10人前だとこの5倍、食材を切るだけでも相当な量だ。
パエリアなら更に炒めて煮詰めるという手順を踏む。
1人で全部作るのはとても現実的ではない。
頑なだったなずなもさすがにそれは理解し、3人で作ることを了承し、料理特訓に移ったのだが……
「ちょ、渡辺、ストップ!みじん切りストップして!?」
「ご、ごめんっ」
「こんなに細かく切ったらペーストになっちゃう」
「細かい方が旨味がよく出るかなって……」
「歯ごたえも大事だからね?」
……前途多難である。