第30章 断章 ご飯?お風呂?それとも……?
もちろん伏黒とはもうそういうことも経験している仲であり、彼が帰ってきた時に言おうとしている“私”の意味もなんとなく分かる。
野薔薇からも「最後はもったいぶって言うのが効果的」とアドバイスをもらっており、そういうことで間違いないと思う。
ただそういう誘い方が正しいのか、言った後伏黒にどう思われるか、誰かに聞けることでもないので悶々と悩んでしまう。
も、もういっそご飯とお風呂の2択でいいんじゃないかな……?
ご飯作ってお風呂も沸かしてるのにもし“私”が選ばれたら、ご飯もお風呂も冷めちゃう。
そ、それにまだ夕方って言ってもいい時間帯だし……
恵くんの照れた顔は見られないかもしれないけど、何より恥ずかしくて実行できる気がしない……!
そう結論づけて気を取り直し、ふと時計を見ると、いつの間にか時計の針は18時を回っていた。
「!!」
なずなの顔がサーッと青くなる。
ど、どうしよう!?
恵くん、6時過ぎには帰ってこれるって言ってたよね?
それなのにまだ晩ご飯は野菜切っただけでお米も炊いてないし、お風呂も沸かしてない!
え、えっと、まずはお風呂の栓を確認して湯張り、ご、ご飯は間に合わないかもしれないけど、お米は早炊きにして急いで生姜焼きの準備を……
わたわたと慌てていると玄関からドアを開く音がした。
「ただいま」
「!?」
帰ってきちゃった……!
今日は恵くんがしっかり休めるように完璧に準備するつもりだったのに……
けど、出迎えないなんてもっての外。
うぅ、もうこうなったら……!