第30章 断章 ご飯?お風呂?それとも……?
「これは譲れないって絶対条件は決めといた方がいいわよ。アンタは特に不動産屋に押し切られそうだし」
「絶対条件かぁ、うーん……恵くんと一緒なら特には……」
「無欲か!」
「で、でも本当のことだよ?恵くんと一緒ならどんな所でも平気」
「惚気るわね〜、じゃあ同棲を始めたらアレを言うしかないんじゃない?」
「アレって……?」
「アレといえばアレよ。ちょっと耳貸しなさい」
なずなが首を傾げながら言われた通りに耳を寄せると、野薔薇はあるとんでもないことを言い放った。
「えっ!?」
驚いて耳を離すと野薔薇はしたり顔で続ける。
「定番は新婚の時なんだろうけど、同棲も一緒でしょ。ムッツリなアイツのことだから照れること間違いなし!」
親指を立てた野薔薇になずなはゴクリと唾を飲んだ。
恵くんの照れた顔……
そ、それは見てみたいかも……!
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そんなことを話していたのが数ヶ月前、
その後なんとか卒業までに高専に近いこの部屋を探すことができたものの、お互いの忙しさは変わらず……むしろますます忙しくなり、同じ部屋に住んでいるのにわずかな時間しか顔を合わせられない日々が続いた。
だが、今日は奇跡的になずなは休日、伏黒も18時過ぎには帰宅できるという。
以前野薔薇から言われたことを実行するには絶好の機会だ。
しかしなずなは頭を抱えていた。
野薔薇と話していた当時は考えつきもしなかったこと……
そう、実行するのは自分自身なのだ。
あんなこと、普通の顔して言える人なんているの!?
『ご飯にする?お風呂にする?それとも……私?』なんて、
む、無理だよ……!
第一、“私”って何!?