第28章 断章 浜辺の誘惑
一方その頃―……
高専の事務室で七海が長いため息をつき、向かいの席で机に突っ伏している五条を見た。
今日はいつにも増して仕事したくないオーラが出ている。
しかもいつもならふざけて七海の仕事まで邪魔するのにそれもなく、ただただ無気力。
「……いい加減報告書を書いてください、五条さん」
「なんで僕だけ……」
「報告書を書かなければならないのは五条さんだけではありません」
「そういうことじゃないんだよぉ、七海ィ……」
「チッ」
ネチネチ絡んできそうな気配に七海が舌打ちすると、
「舌打ちしたいのは僕の方なんですけど!!」
心外だと言わんばかりにダンッと机を叩いて五条が立ち上がった。
「生徒の皆は海で遊んでるのに担任の僕が行けないのってどう考えてもおかしくない!?」
「……」
必ずしも保護者が必要な年齢ではないのだし、別段おかしくはない。
彼らだってたまには羽を伸ばしたいだろう。
だが、それを口にすればどんな面倒事になるか想像できない七海ではない。
「チクショウ、僕も海行きたかったーっ!!」
黙り込む七海の向かいで五条の叫びが室内に虚しく響いていた。
「全く……大人げがあるのか、ないのか……」
七海は本日何度目かになるため息をつく。
ああ言って駄々を捏ねているものの、五条は今日乙骨に振られる予定だった任務を肩代わりしているのだ。
黙って肩代わりだけしていれば美談だったろうに、そうならないのが五条の五条たる所以である。