第28章 断章 浜辺の誘惑
「やっとなずな達も来た。遅いわよ、アンタ達」
野薔薇の声になずなはビクリと肩を揺らし、伏黒の手を離してしまう。
急に空になった伏黒の手、
なんとなく寂しくもあり、けれどずっと手を繋いでいて周りからからかわれても嫌なのでちょうどよかったかと思い直す。
ただ……
「パンダ先輩の水着……なのかな?すごいね」
そう言って水着とは思えない水着を着ているパンダ先輩を示す彼女とも、
「虎杖くん、大きなシャチ持ってきてるね」
そう言いながら大きな帽子のつばを掴む彼女とも……
ずっと目が合わないことだけが引っかかっている。
けれどせっかく海に来て、それに水を差す気は全くないので、野薔薇に呼ばれてそちらに駆けていくなずなを引き止めることはしなかった。
早速虎杖がこの日のために買ってきたシャチを持ち上げようとすると、
「熱っ!?シャチ熱ぃ!!火傷する」
取手に触れてあまりの熱さに手を引っ込めた。
膨らませた後砂浜に置いてあったため、取手を含めた黒い部分が熱を吸収してしまっている。
引っ込めた手をさすっている虎杖を伏黒がたしなめる。
「だから黒はやめろって言ったろ」
「だってシャチといえば黒じゃね?……おぉ、水かけてもすぐ乾く、ヤベェ……溶けるかな?」
「その前に発火しそうだけどな」
「いざとなったら満象よろしく!」
「そうなる前に海で冷やせ。放置するな」