第28章 断章 浜辺の誘惑
持ってきたシャチの浮具の膨らみ具合を確かめながら、虎杖は伏黒やなずなと分かれた場所に目をやった。
「……なぁ、伏黒達、全然来ないけど大丈夫かな?」
「デートもまだでいきなり海だからお互いカチコチにでもなってんじゃない?」
カップルなのだから皆から離れて2人きりになっている可能性もなくはないが、あの2人に限ってそれはゼロに近い。
肩をすくめる野薔薇に虎杖は思わず聞き返していた。
「えっ、初デートもまだなの!?」
「ホントどうしようもないわ。任務終わりにちょっと手繋いだくらいでその気でいんのよ」
「……マジ?」
いくらなんでも進展が遅すぎる。
なずなはいかにも奥手なのでそういうのも想像がつくが、伏黒がその調子に合わせて耐えられるのかちょっと不思議だ。
「伏黒がもっとグイグイ行かないと進展しないってのに、あのムッツリ、いつまで経ってもなずなに手出ししてないってことでしょ!?」
信じらんない!と憤慨して腕を組む野薔薇を虎杖がなだめる。
「まぁまぁ、それだけ渡辺のこと大事にしてるってことだろ」
「それにしたって限度があんでしょうが!」
「でもそれは伏黒達のタイミングだろ?俺達がどうこう言ってもしょうがねーよ……って噂をすればじゃね?」
虎杖が指差す先には手を繋いでこっちへ歩いてくる2人が。
なずなの顔は麦わら帽子に隠れて見えないが、伏黒の方は明らかに頬が赤くなっている。
「うわ、あんな伏黒久々に見たわ、メッチャ照れてる」
「……何あれ、手出ししないのは両方とも照れてるからってこと?」
これはなんとも先が長くなりそうだ。