第28章 断章 浜辺の誘惑
なずなは顔を真っ赤にして麦わら帽子を目深に被った。
心臓が保たない!
こ、こっちが悩殺されちゃうよ……!
前に水着の試着をした時、野薔薇ちゃんから言われたさりげなく腕を絡ませる、泳げないフリをして手取り足取り教えてもらうなんてとてもじゃないけどできない。
「俺達も行くぞ」
「う、うんっ」
差し出された手を取って歩き出すが、なずなは顔を上げられず、繋がれた手を見ていることしかできなかった。
一方、なずなの手を引く伏黒も普段通りを装っているものの、内心では全く冷静でいられなかった。
手の中にすっぽり収まる小さな手、自分とは違う丸みを帯びた肩、細くてしなやかな腕、リボンのせいで強調され過ぎなんじゃないかと思う胸。
水着姿になってよりはっきりする女性らしい腰のくびれに普段は見ることのないハリのある柔らかそうな太腿。
少し後ろを見れば目に入る自分の足跡の隣に並んだ歩幅の狭い小さな足跡も体格差を如実に表していて気が気でない。
露出の多いビキニじゃなくてよかった……
って何想像してんだ、俺は……!
海岸の暑さとは別の熱が顔に集まってくる。
幸いなずなが帽子を被っているので、赤くなっている自分の顔を見られずに済んだ。