第28章 断章 浜辺の誘惑
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「海!海行きましょうよ、真希さん!」
せっかく皆で休めるのだから何か夏らしいことがしたいということで、野薔薇が提案したのは海水浴。
「いいじゃん、海!こっちは暑いもんな」
真っ先に同意したのは虎杖だった。
いくら高専が山の中にあるとはいえ、仙台と比べると東京は暑い。
皆で行くということであれば涼める上に楽しそうだ。
しかし、
「アンタに聞いてないわよ!」
「えっ、皆で行くって話じゃねーの!?」
ヤイヤイ言い始めた2人の間に真希が割って入る。
「いいんじゃねぇの、海。砂浜は足腰鍛えるのにちょうどいいし」
「おかか……」
「遊びに行くんですってば!」
鍛える前提で話す真希に狗巻は嫌そうに眉を寄せ、野薔薇も言い直す。
「鍛練反対」と書いてある2人の顔を見た真希は思わず吹き出した。
「冗談だって。せっかくの休みだしな」
「やったー!真希さんと海!」
少し離れた場所でそれを聞いていたなずなは隣にいる伏黒を見上げる。
「私、家族以外と海に行くのは初めて。伏黒くんは?」
「俺もだ」
というより幼い頃から津美紀と2人だけだったため、海にはほとんど行ったことがなかった。
「そうなんだ。皆で行くの、楽しみだね」
「ああ」
……と頷いたものの、海水浴場というのは浮かれた人間が多い印象が強い。
伏黒はなずなが変な輩に声をかけられないように気をつけなければ、という一種の使命感に駆られていた。
周囲がすっかり海ムードに染まる中、険しい顔で立ち上がった大きな影。
「俺は嫌だ!!」
パンダだけは断固反対した。