第28章 断章 浜辺の誘惑
……眩しい、
ただひたすらに眩しい。
なずなの目の前に思わず視線を奪われてしまう光景が広がっていた。
「ちょっとなずな、なに突っ立ってんの。アンタも選ぶのよ!」
「で、でも、私、こ、こういうのは着たことないし……」
「なに怖気付いてんの!」
なずながすっかり気後れしている先には色とりどりの水着の数々。
これまで紺一色のいわゆるスクール水着しか着た事のないなずなにとって鮮やかな花模様のビキニは眩しいと同時にとてもじゃないが自分は着れないと気後れしてしまう。
しかし、そんなことはお構いなしとばかりに野薔薇が引っ張っていく。
「む、無理だよ……!」
「またそんなこと言って。着たことないなら挑戦すればいいでしょ」
野薔薇はハンガーに掛けられた水着を次々となずなの身体に当てていく。
どれもこれも布地が少ないのが気になって仕方ない……いや、ビキニとしてはごくごく一般的なのだが。
これなんかいいんじゃない?と水色の下地にパステルカラーの花が描かれたビキニを手渡されるが突き返してしまう。
「ぜ、絶対に無理!」
なずながここまで頑なに拒むのには理由があった。
一緒に水着を見にこの店にきたのは野薔薇と真希。
そして2人には分からないであろうなずなの悩みの種。
なずなの視線はちらりと野薔薇の胸元へ向かう。
……そう、2人とも胸が大きいのだ。
身体つきも女性らしくてそれこそビキニがよく似合う。
それに比べて、自分は制服を着たらあるのかないのか分からなくなる程の小ささ。
この2人と一緒にビキニなど着ようものなら、その貧相さが目立って仕方ない。
ではなぜ水着を買おうとしているのか。
事の発端は約1週間前、呪霊の発生が落ち着いてきていることもあり、奇跡的に1、2年生の休みが合わせられそうだという話になったのだ。