第23章 本領
これまでとは異なる呪力の気配に宿儺は眉をひそめて自分の腹に刺さった鬼切を見下ろす。
自身の中で急激に呪力を練ることができなくなっていく。
「貴様、何のつもりだ?」
「今の私じゃ、きっと倒しきれないから……ここでオマエを封印する!」
実力が雲泥の差だとしても鬼切にならできる、という確信があった。
そして、封印が成功すれば抑え込まれていた彼もきっと戻ってくることができる。
でもタダで封じられてくれる程、目の前の鬼は易い相手ではない。
その証拠に宿儺は口元を歪めて嗤っている。
「ククッ、これが封印?俺はまだ動けるぞ」
なずなの髪を離した右手が顔面に飛んでくるが、左手で受け止める。
純粋な腕力も強いが、呪力の乗っていない打撃ならなずなでも十分止められた。
「この程度で封印できるなんて初めから思ってないよ」
命は懸けられない。
けれど別のものなら何だって差し出そう。
それで彼を取り返せるならどんなものだって……!
「だから、鬼切はここに置いていく。この先、一生術式が使えなくなったって構わない」
自らに課す常時術式使用禁止の縛り、
宿儺にかかる重圧が一段と強烈になる。
受け止めていた宿儺の右手を振り払い、なずなは空いた左手で素早く九字を切る。
1000年間受け継がれてきた鬼切と己に刻まれた術式、
今の自分に差し出せる最大限をかけて、封印術式を完了させる。
その後、鬼切を握る手を緩め、遂に離した。
「やりおったな、小娘……!」
舌打ちした宿儺が突き刺さる鬼切に触れようとするとジュッと音を立てて手が爛れた。
鬼切に拒絶されている。
「オマエには絶対に抜けないよ」
封印の効果で急速に意識を沈めていく宿儺に言い放つ。
たとえなずなが離れても、鬼切はここに残り続ける。鬼切を向けた時から吸い寄せられるようだったから。
宿儺が生き続ける限り、その術式効果で宿儺を削り続ける。
鬼切が次の使い手を選び、ここから離れることもない。
斬るべき鬼がすぐそこで生き続けるのだから。
宿儺の意識が完全に途切れたことを確認し、なずなは自ら領域を解いた。
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