第23章 本領
腹の中心、臍を貫き、勢いそのままに獣の頭骨の山を弾き飛ばして生得領域内に広がる巨大な骨に宿儺を縫い留める。
「それだけか?この程度で俺の命には届かんぞ」
「くぅ……っ!」
大きな手に髪を鷲掴みにされ、なずなは呻き声を漏らした。
「絶命の縛りならまだしも、それすらできぬ臆病者に何ができる?」
“絶命の縛り”
数ある縛りの中でも殊更強力な縛り。
文字通り己の命を懸けることで呪力、術式性能の劇的な底上げを行う。
なずなもそれを考えなかった訳ではない。
命に代えて宿儺を倒す。
自分の命を差し出すのと引き換えに宿儺の命を奪う。
呪術的に考えれば天秤は釣り合う上、こちらには鬼切もあるので現実的な策だ。
しかし、
「命は懸けられない」
―命だけは手放さないでほしい―
あの雨の日に恵くんと交わした一番大切な約束。
ひたすらに優しく私を縛る呪い。
もしここでその約束を破ったら、たとえ宿儺を倒せたとしても恵くんをひどく傷つける。
心優しい彼はきっと自分を責めてしまう。
だから死ぬ訳にはいかない。
宿儺を貫く鬼切が脈打つ。