第23章 本領
少しでも呼吸を整えようと距離を取っても宿儺はすぐに詰めてくる。
なずなは宿儺の打撃を避け、受け流しきれない連続攻撃に血を吐きながら必死に考えを巡らせた。
自分の手には当たれば確実に宿儺を斬れる鬼切がある。
今、宿儺は術式も領域も使えない。
何かないか、
私にできること、
私に懸けられるもので何か……
これまでの記憶を懸命に手繰り寄せる。
少年院、梔子駅、八十八橋、無垢蕗村、
そして渋谷……
やがてカチリとパズルのピースが埋まるように思い当たった。
そうだ、五条先生……
……これなら勝つ必要はない。
考えついてすぐ、まだ傷も治らぬ内になずなは攻勢に出た。
防御はかなぐり捨て、狙いをただ一点に絞る。
「遂に自暴自棄か、虫ケラ如きが何をしても無駄だと分からんか?」
頬を殴られ、腹を蹴り上げられても足を止めない。
蹴飛ばされそうになっても踏み留まり、前に出る。
宿儺の拳が右眼に直撃しても、
蹴りによって肋骨が折れても、
殴られた衝撃で片耳の鼓膜が破れても、
伏黒を助けるのだという一心がなずなを突き動かす。
「っ、恵くんは渡さない!オマエなんかに絶対に渡さない!!」
なずなの意志に呼応して鬼切から流れ込む呪力が爆発的に増大する。
そして、
渾身の力で繰り出された鬼切が黒い光を迸らせ、宿儺の腹部に届いた。