第23章 本領
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―……私、考えてもずっと分からないことがあるんです―
―どうして父や兄ではなく、私だったんだろうって……―
やっと理解した。
鬼切が自分を選んだ理由。
これまで呪力を溜め込んでいた鬼切がなぜその呪力を消費する術式を持つ者を選んだのか。
―この時のためだったんだ―
鬼切は私の近くに宿儺が現れることを分かっていたんだ。
同じ学年、同じクラス、
だから父でも兄でもなく私を選んだ。
他でもない両面宿儺を斬るために……
なずながゆっくりと目を開けると巨大な肋骨が覆い被さるように頭上に横たわり、足元には血のような赤い液体が薄く広がる。
そして空間の中央には獣の頭骨が山積みになっており、その上に宿儺が座っていた。
「滑稽な虫だな。自ら火に飛び込んできたか」
呪いの王の殺気を向けられても不思議と竦みはしなかった。
それよりも今は狙い通りになったことの安堵感が勝っていた。
良かった。
ここは宿儺の生得領域で間違いない。
できるかどうか分からなかったけど、うまくいった。
なずなが行ったのは他者の生得領域への接続。
レジィとの戦闘で培った領域の重ね掛けを応用して相手の体内に領域の起点を作り、そこから相手の生得領域に合わせて自身の領域を展開する。
今ここは宿儺の領域でもありなずなの領域でもある。
その証拠になずなの領域内で降っている雨と本来宿儺の生得領域に存在しないはずの構造物―鮮やかな朱塗りの橋が掛かっていた。
真っ直ぐ宿儺を見据えて鬼切を構える。
これで恵くんの身体を傷つけずに宿儺を斬れる。
受肉とは肉体と呪物が融合すること。
だけど魂は決して交わらない。
それは今までの虎杖くんと宿儺の関係、来栖さんと天使さんの関係から分かっている上、天使さんも受肉時の器の自我について、殺し沈めるとは言っていたけれど、融合するなんて言っていなかった。
―ここで宿儺の魂を斬る―
鬼切にならできる。
だって鬼切は白稚児の領域内で白い子供達の魂を斬っているから。
それにもうひとつ、
なずなにはある確信があった。