第23章 本領
ザシュッ
刃物が肉を斬る音、
柔らかい肉を断つ感触とその下の硬い骨に刃が当たる感覚、
刀身を濡らし、手元に流れ落ちてくる赤色、
辺りに点々と咲く血の華。
初めて人を殺した時と同じ。
……ああ、本当に嫌な感覚、
私は一生この嫌悪感を忘れないだろう。
でも今は目の前の宿儺を斬ること、
その一点にのみ意識を集中させる。
肩を浅く切りつけた鬼切がそれ以上進まないことに宿儺はほくそ笑む。
「さぁ、その刃をこの心臓に届かせてみろ。ケヒッ、オマエでは伏黒恵を殺せまいだろうがな」
まるで見せつけるかのように前に進み出て、肩口に食い込んだ鬼切の刃を己の胸の中心に進ませようとするが、なずなはそれに抵抗した。
「……それじゃあ意味が無いの」
「ほう?」
目を細める宿儺をきつく睨む。
「オマエは心臓が無くても生きられるんでしょ?心臓を切っても意味が無い。だから……!」
少年院で虎杖くんの心臓を抜いた時、確かに宿儺はそう言っていた。
今はあの時よりも指が集まり、力も戻っているから、そんな攻撃は意味を成さない。
私の狙いはもっと別の―……
昔、お父さんから聞いた鬼切の話―
数々の鬼を斬ったという伝承、
子供ながらに鬼とは呪霊のことだと思っていたし、きっとその認識は間違っていない。
でも……
宿儺を目前にして強烈に頭に叩き込まれる。
鬼とは呪霊だけではないのだ、と。
両面宿儺は今から約1000年前、平安時代に実在した呪術師、つまり人間だった。
だがその名は鬼神のもの。
鬼神の名を冠しているのだから、それは間違いなく鬼である。
これまでにない程強く鬼切が脈打ち、目前の鬼を斬れと訴える。
視界が白く爆ぜたと錯覚させる程の、全身の血が沸騰したかのような怒り。
でも頭の中は正反対に凍てついて、冷たく灼きついていく。
その衝動に抗うことなく、なずなは鬼切に指を滑らせた。
「もう迷わないって決めたんだから……!」
―領域臨界―
「刹那無辺ノ断(セツナムヘンノコトワリ)」