第7章 日々是特訓
「渡辺、そんなに速かったか?」
何度も見てきたつもりだったが、全然違って驚いたと伝えたら、なずなの方も目を丸くする。
「そ、そうかなぁ?いつもと変わらないはずだったんだけど……あ、縮地法っていう歩き方のせいだと思うよ」
縮地法とは、重心や腰の高さを変えず、地を蹴らずに重力を利用して相手との間合いを詰める古武術の動き方のことだ。相手に初動を感じさせずに近づくことで、あたかも相手との間にある地面が縮んだかのように見せる。
しかし実際に高速移動しているわけではなく、相手に錯覚させるタイプの歩法なので、横から見ると動きがバレバレだったりするのだ。
「できてるか心配だったんだけど、ちゃんと騙せてたみたいだね」
そう言ってなずなはいたずらっぽく笑った。
その後も数試合打ち合った後、審判役を務めている真希がぽつりと呟いた。
「恵さ、行儀がいいよな」
「それ、分かります。こっちまで行儀よくなっちゃう」
行儀がいい……?
そもそも棍と木刀の混合試合には作法もなにもないだろ。
なずながなぜ真希に同意しているのか、伏黒はいまいちついていけない。
「訳分かんねぇって顔だな。じゃあなずな、次は行儀悪くやれ」
「了解です!」
妙にやる気を出しているなずなに伏黒は眉をすがめた。
真希の合図と同時になずなが大きく振りかぶる。
何する気だ……?
「えいっ!」
次の瞬間、木刀が回転しながら飛んできた。
「なっ!?」
飛んできた木刀を払うともう目の前になずなが迫っている。
棍の間合いの遥か内側。
とっさに下がろうとして重心が後ろになったところをなずなは見逃さなかった。