第23章 本領
立ち上がりざま手にした鬼切を宿儺に差し向ける。
宿儺は飛び退いて避けようとするが、不思議なことに鬼切はまるで吸い寄せられるようにその動きを捉えていく。
斬撃自体は躱したものの、宿儺も鬼切のあり得ない軌道に眉を寄せた。
これまで虎杖の中にいた時に散々見てきた鬼切は使い手に呪力を与える以外はただの刀だった。
それも使い手側の術式によるものだ。
相手を追尾する術式などないはず。
そんな術式があればとうの昔に使っている。
だが、ふと思い当たったことが一つだけ。
それは虎杖が指を飲み込む前。
鬼切があり得ない軌道を取ったのを一度だけ見たことがある……
無論宿儺自身ではなく、今の器である伏黒が目にした光景だ。
彼女の父親が自刃した時、あの刀は到底あり得ない軌道で当時の持ち主の心臓を貫いた。
ただ、それは鬼切に篭められた世代交代の呪いで説明がつく。
呪具の持つ術式は術師と同じく原則1つのみ。
まだ何か見落としているということか。
「……その刀、妖刀だな」
すかさず迫る二撃目、三撃目も避けてわずかな隙で観察する。
あの追尾性能と伏黒の肉体が動きを妨害してくる可能性がある以上、間合いの内側に入れば一撃はもらうだろう。
だが、それも反転術式を使う宿儺には些末だ。
小娘が伏黒恵の肉体を切りつければ多少なりとも隙が生じる。
そこであの刀を破壊してしまえばいい。
宿儺はニヤリと口端を上げた。