第23章 本領
しかし、聞こえてきた重い打撃音とは裏腹に想像していたような衝撃が全くない。
「ぇ……」
目を開けると、なずなの目の前の地面を宿儺の拳が抉っていた。
絶対に避けられない距離だったのにどうして外れているの……?
対する宿儺は忌々しげに舌打ちする。
一瞬ではあったが、先程より抵抗が強まり、肉体の動きにまで干渉された。
魂を折るという意味ではこの手で直接殺すのが効果的だというのに、この具合では骨が折れそうだ。
なずなは宿儺の様子から意図した行動でないことを察し、こちらに届かなかった拳を見つめて口を引き結んだ。
未だ信じたくない目の前の現実、
だがその現実はまだ彼が消えていないという一縷の希望も映した。
様々な感情がない混ぜになってこみ上げてくる。
……ああ、
恵くん、そこにいるんだね。
さっき首に回された手の力を緩めてくれたのも、宿儺の術式が弱まっているのも、今の拳の軌道が外れたのも全部、
恵くんが止めようとしてくれていたからなんだね。
だったら私は……
あなたを助けるために全力を尽くすよ。
どんな手段を使っても、
たとえそれが恵くんを傷つけることになっても、
……その結果命を奪うことになったとしても、
私はもう迷わない。
なずなの心はここにようやく定まった。